陸上競技に求められる身体づくり

陸上競技に求められる身体づくり

1.長距離走
通常、長距離走とは5000m以上の距離を指します。長距離ではランニング効率を高めるため、必要最小限の体重で脂肪が少なく、筋肉量が多い身体が理想です。ただし、短距離のような瞬発力は必要ありません。筋肉量が多すぎると長い距離を走るのに負担がかかるため、優れた長距離選手のBMI(体格指数:身長に対する体重の割合)は低い値になります。
長距離選手は、筋肉を必要以上に太くする必要はありませんが、筋力を強化し、耐久力をつける必要があります。
長距離選手の筋力トレーニングでは、一般的に強度や負荷は高負荷よりも、低負荷から中負荷で回数を多くして行います(15~20回)。セットとセットの間の休息は30秒程度にして、3~4セット行います。また、ランニング動作のトレーニング(ランニングドリル)を、回数を多くするようにします。
最近では、長距離でも、スピード強化のために短距離選手が行うジャンプ系のトレーニングを取り入れたり、上半身を強化する選手が増えているようです。
いずれにしても、長距離選手は長時間、同じ姿勢で走り続けるため、オーバーユース(使い過ぎによる障害)や慢性障害が生じやすく、腰痛や膝痛が起こります。体幹強化や柔軟性を維持するために、ストレッチングは欠かさず行いましょう。身体全体のバランスを整えるようにトレーニングを計画してください。
2.中距離走
通常、陸上競技での中距離走とは、800~3000mの距離をさします。中距離走においてはスピード、そのスピードを維持するスピード持久力、さらにその走力を維持するために必要な高い心肺持久力、という3つの能力を総合的に養成するトレーニングを実施することになります。乳酸が発生するハイペースでランニングのインターバルを繰り返して、乳酸に対する耐性能力を高めることが目標です。
中距離走の筋力トレーニングは、長距離の筋トレーニングとほぼ同様で、長距離走では休息時間を短めにし、セット数を多くします。中距離走は、短距離走長距離走の筋トレーニングの中間と考えるといいでしょう。
ウエイトの重さや回数は、長距離と短距離の中間で、セット間は1分間程度にします。また、ジャンプ系のトレーニングも行うといいでしょう。もちろん、体幹のトレーニングやランニング動作のトレーニング(ランニングドリル)も行ってください。
なお、同じ方向に身体を傾けて走り続けるトラック競技の選手は、左に身体が傾きがち。そのため、左右のバランスが崩れ、腰痛や股関節痛が起きやすくなるので、左右のバランスを整えるトレーニングを実施するとよいでしょう。
トラック競技の場合はバランス強化のため、片手にダンベルを持ち、肩幅に足を開いて立ち、上体を左右ごとに倒すサイドベンド(特に右側)や、股関節の外転筋を強化するサイドレイズ(特に左側)等を行うと効果的です。
3.短距離走
通常、短距離走は100~200m、400mを指します。短い距離を高いパワー高スピードで走りぬける競技です。そのため、長距離や中距離に比べてより高いスピードやパワー発揮のための筋肉量が必要であり、がっしりした体型が求められます。
短距離のトレーニングとしては、長・中距離と同様に、体幹レーニングやランニング動作のトレーニング(ランニングドリル)は必須です。その上で、高強度のウエイトトレーニングやジャンプ系のトレーニングを行うようにします。
瞬間力が要求される短距離では、高速下で筋肉を収縮させる動作が必要とされます。高スピードで高いパワーを発揮させるために、筋力トレーニングでは高負荷で、低回数、セット間の休息時間は2~3分間と長くするのがポイントです。
ジャンプ系のトレーニングは、台の上でステップジャンプ(ボックスジャンプ)、全力でのスクワットジャンプを行います。上半身の強化にはベンチプレスやクラックプッシュアップ(手をたたいて行う腕立て伏せ)、けんすい(プルアップ)、肩や上腕強化のためのアップライトロウイング、ハンマーカール等を行います。短距離では、瞬間的に高速回転で伸ばされるため、大腿裏のハムストリングスが肉離れを起こしやすいとされます。ハムストリングスの強化のため、レッグカールやムーブメントドリル(股関節の動作)を行います。

器具なしで今日からできる! トレーニング法

1.短・中・長距離走
体幹のトレーニン
(1)ベントニーシットアップ
仰向けになり、足の裏を床につけたまま、膝を曲げて立てる。両手を胸の前で交差したまま、上半身を起こす。この際、背中の上半分だけを起こし、背中の下半分は床につけたまま行う 。
20~30回×2~3セットが目安。
(2)クランチ
仰向けになり、膝を90度に曲げ、頭の後ろで手を組む。膝を90度に曲げた状態をキープしたまま、おへそを覗き込むようにして、上半身を丸める。腹筋を鍛えることができる。
20~30回×2~3セットが目安。
●上半身のトレーニン
(1)けんすい
肩幅より少し広めに両手を開き、鉄棒などのバーをつかんでぶらさがり、腕と背中を使って身体を引き上げる。アゴがバーより上になるくらいまで身体を引き上げよう。 けんすいでは、自分の体重を使って広背筋を鍛えることができる。
5~10回×2~3セットが目安。
(2)斜めけんすい
広背筋を鍛える斜めけんすいは、まっすぐに立った時に自分の胸の位置の高さにあるバーで行う。肩幅より広げて両手でバーを持ち、両足を地面につける。この時、頭からかかとまでが一直線になるようにし、腕と体幹が90度になるように構える。その状態で腕を引き、身体を一直線に保ったまま、バーに引き寄せる。
5~10回×2~3セットが目安。
(3)腕立て伏せ
両手を肩幅に広げて地面につき、足をそろえて身体を沈める。肘が直角になるまで身体を沈め、身体がくの字に曲がったり、腰が落ちたりしないよう、まっすぐ保つのがポイント。
ゆっくりと10~20回×2~3セット行う。
2.中・長距離走
●脚強化のトレーニン
(1)フォワードランジ
まずは足を軽く開いて腰の幅くらいに立ち、右足を一歩前に踏み出し、そのまま身体を沈める。立ち上がりながら、右足を元の位置に戻す。今度は左足を一歩前に踏み出して身体を沈め、立ち上がりながら左足を元の位置に戻す。これを左右交互に繰り返す。身体を起こして足を戻す際、前に出した足で地面を蹴って戻る。
20~30回×2~3セットが目安。
(2)スクワット
かかとを肩幅の広さに開き、手は胸の前で組み、身体を沈める。この時、太ももが床と平行になるまで身体を沈める。この時、ひざが爪先より前に出ないように注意し、爪先と膝が同じ方向に向くように行う。
10~20回×2~3セットが目安。
(3)スプリットスクワット
足を肩幅に広げて立ち、頭の後ろで手を組み、片方の足を軽く前に出す。前足と後ろ足の真ん中に、身体をまっすぐに沈める。このトレーニングでは、体幹も鍛えることができる。
左右ともに10~20回を目安に行う。
2.短距離走
●脚パワートレーニング(ジャンプ・トレーニング)
(1)シザーズジャンプ
両足を肩幅に広げて、両手を頭の後ろで組む。真上にジャンプし、一番高いところで右足を前に、左足を後ろにして着地する。
再び真上にジャンプしたら、一番高いところで足を前後に入れ替え、左足を前に、右足を後ろにして着地する。この動作を交互に繰り返す。
20回×2~3セットが目安。
(2)ボックスジャンプ
30cmほどの高さの台(または段差)を用意する。台の前に立ち、頭の後ろで腕を組み、台の上に飛び乗る。全力を出し、身体を真上に引き上げるよう意識して行う。降りるときも、身体を真上に引き上げるようにジャンプして、地面に足を着く。
20回×2~3セットが目安。
●スタートスピード強化トレーニング〈坂道ダッシュ
短い距離の坂道ダッシュを行うことで、スタートダッシュの実力をつけよう。前傾姿勢を保ったまま、膝を素早く挙げるように走るのがポイント。
20mを10本、10mを10~20本、週2回程度行うのが目安。
●瞬発力を強化するトレーニング〈バウンディング〉
足を大きく前後に開いた姿勢から軽いランニングをする。そこから、腕を大きく振り、左右の片脚で力強く地面を蹴って、より高く、より遠くへジャンプするように移動する(着地は足の裏の前方2/3で行う)。
この時、体幹や脚の関節をしっかり固定して行うこと。あまり遠くに飛びすぎると、減速してしまうので注意を。
20~30回×3~5セットを目安に行う。
●ムーブメントドリル(速い動きの強化)
(1)ニーアップ(腿あげ)
腰幅に足を開いて立ち、母指球に重心を乗せて背伸びをする。その姿勢で、ランニングの動作のイメージで、できるだけ素速く腕を交互に前後に振り、片脚ずつ交互に膝を高くやや前方に挙げる。
両腕は肘を90度に曲げ指先はそろえて伸ばし、膝は腰の高さまで挙げる。
腕の振りは、肩を中心に腕が交差しないように、主に後方への動きを行う。
20~30回×3~5セットを目安に行う。
(2)シーテッドアームスイング(腕ふり)
両脚を伸ばし、上体をやや前方に倒し、背筋を伸ばしややアゴを引く。その姿勢で、両腕は肘を90度に曲げ指先はそろえて伸ばす、腕の振りは、肩を中心に腕が交差しないように後方への動きを主に行う。
始めはゆっくりと徐々に速く行う。次はリズミカルに全力動作で速く行う。腕の動きに伴い、自然に股関節の動きも始まるまで継続する。
20~30回×3~5セットを目安に行う。