箱根有力校の“戦力補強”状況は?

高校生ランナーの進路から占う

東海大や青山学院大、東洋大など、箱根駅伝に出場した各大学の新戦力の顔ぶれは!?
東海大青山学院大東洋大など、箱根駅伝に出場した各大学の新戦力の顔ぶれは!?【写真は共同】

 陸上競技で勝敗を分ける大きな要素は「準備」であるとよく言われる。なかでも箱根駅伝はいかに強い選手をそろえられるかが重要で、関係者の間では高校生のスカウティング状況が結果に対して占める割合は7割とも8割とも言われている。

 では、今回の箱根駅伝に出場した大学の戦力補強状況はどうなっているのか。この春に進学する有力高校3年生の進路を紹介するとともに、箱根駅伝において新入生の入学状況はどこまで成績に影響しているのか、過去4年間のデータをもとに検証する。

新年度スカウティング1位は青山学院大

 今年の第95回箱根駅伝東海大歓喜の初優勝を遂げた。10月の出雲駅伝と11月の全日本大学駅伝を制し、“大本命”と言われた青山学院大を破り、新時代の到来を予感させる結果となった。

 その一方で、東海大の優勝は必然だという見方もある。というのも現3年生世代はスカウティングの“当たり年”で、多くの高校トップランナーがこぞって東海大に進学。彼らが上級生になる頃には東海大が学生長距離界を席巻するのでは……と当初から評判だった。実際にはライバル校の成長もあって独壇場とまではいかなかったが、スカウティングによる大量補強が東海大に初優勝をもたらしたのは間違いないだろう。

 では、今の高校3年生の進学状況を見てみると、新年度の補強は青山学院大の充実ぶりが際立つ。すでに合格発表が終わっている大学のみの比較となるが、即戦力またはそれに準じる実力者と言える“5000メートル14分20秒以内”の自己ベストを持つ選手が、青山学院大は全大学で最多の8人。12月の全国高校駅伝(以下、都大路)では準エース区間の4区で区間2位(日本人最上位)を占め、1月20日の全国都道府県対抗男子駅伝でも4区区間賞と活躍した横田俊吾(学法石川高・福島)、都道府県駅伝1区9位の岸本大紀(三条高・新潟)、都大路4区5位の大澤佑介(樹徳高・群馬)、同7位の宮坂大器(埼玉栄高・埼玉)、同3区10位の関口雄大(豊川高・愛知)ら、タイムだけでなく実績も伴う選手が多数入学する。

 次いで有力選手が多いのは東海大で、14分20秒切りは飯澤千翔(山梨学院高・山梨)、宇留田竜希(伊賀白鳳高・三重)、松崎咲人(佐久長聖高・長野)、濱地進之介(大牟田高・福岡)、國分駿一(学法石川高・福島)の5人。松崎は2017年都大路優勝メンバーで、将来のエース候補の一人。濱地も都道府県駅伝5区5位、國分は都大路7区5位とそれぞれ好走している。記録(14分06秒29)でトップの飯澤はインターハイ1500メートル7位のスピードを持ち、5000メートルでも決勝に進出(16位)するなどポテンシャルが高い。このほかにも14分30秒を切る選手が5人おり、粒ぞろいの戦力だ。

世代最速の青森山田高・田澤は駒澤大

 箱根駅伝3位の東洋大には都道府県駅伝1区2位の児玉悠輔(東北高・宮城)ら4人の14分20秒切り選手が入学。箱根4位の駒澤大は高3世代でただ1人13分台(13分53秒61)を持つ田澤廉(青森山田高・青森)、都大路6区区間賞の宮内斗輝(佐久長聖高・長野)らが加わる。上位層を厚く確保した青山学院大東海大に対し、東洋大駒澤大は後にチームの核となり得る選手を狙った印象だ。

高3世代でただ1人13分台の記録を持つ青森山田高の田澤廉(左端)は駒澤大へ進む。写真は2017年愛媛国体のもの

高3世代でただ1人13分台の記録を持つ青森山田高の田澤廉(左端)は駒澤大へ進む。写真は2017年愛媛国体のもの【写真は共同】
 このほか、毎年多数の有力選手が加入する明治大も都大路1区10位の櫛田佳希(学法石川高・福島)ら14分20秒を切る選手が5人加わる予定。早稲田大は現時点では4人しか合格者が判明していないが、インターハイ5000メートル日本人トップ(5位)で世代ナンバーワンの実績を持つ井川龍人九州学院高・熊本)のほか、都大路2区区間賞で都道府県駅伝1区でも4位と好調な小指卓也(学法石川高・福島)、都道府県5区9位の鈴木創士(浜松日体高・静岡)の14分ひとケタ台3人と、2年時にインターハイ5000メートルで決勝に残って13位だった安田博登(市船橋高・千葉)という顔ぶれ。昨年度に続いて世代の上位選手が入学する。

 その他の有力選手は国学院大に中西大翔(金沢龍谷高・石川)、順天堂大には長山勇貴(水城高・茨城)と伊豫田達弥(舟入高・広島)、中央大は梶山林太郎(世羅高・広島)、今回の箱根駅伝予選会で落選した創価大には葛西潤(関西創価高・大阪)と濱野将基(佐久長聖高・長野)の14分ひとケタ選手がそれぞれ加入し、即戦力として活躍しそうだ。

優勝争いの条件は「スカウティング+育成力」

もっとも、有力高校生の入学が箱根駅伝の結果にすぐ結びつくわけではない。陸上競技の専門誌である『月刊陸上競技』では、毎年長距離有力校に進学する新入生リストと5000メートルの自己ベストを掲載し、そのうち各校上位5人の平均タイムを算出して「新人力」として紹介している。これを記録順に並べて過去4年分をまとめると(以下の表1〜4参照)、各年度の新人力トップ10のうち5〜6校は今年の箱根駅伝でシード権を獲得していることが分かる。

■年度別「新人力」ランキング トップ10
表1:2015年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成
表1:2015年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成【画像:スポーツナビ
表2:2016年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成
表2:2016年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成【画像:スポーツナビ
表3:2017年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成
表3:2017年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成【画像:スポーツナビ
表4:2018年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成
表4:2018年度「新人力」ランキング。「月刊陸上競技」提供データを元に作成【画像:スポーツナビ

 年度をさかのぼるほど今大会との相関は強まり、今年の箱根で1〜4位を占めた東海大青山学院大東洋大駒澤大の4校は、「新人力」でも2015〜17年度の3年間は上位の常連。とはいえ、スカウティングだけで箱根駅伝の結果が決まるわけではなく、「新人力」で4年とも上位にランクインしている明治大は箱根駅伝では14位、18位、予選会敗退、17位と苦戦が目立つ。2018年度の新人力が1位で、2015〜16年度もトップ10に入っている早稲田大、2016年度から新人力が急上昇中の中央大も今年の箱根ではシード権を獲得できなかった(※)。スカウティングの成果が箱根で威力を発揮するには数年のタイムラグが生じると考えられる。

 その点で言えば、「新人力」では2017年度に9位になっただけの帝京大が今回5位に食い込んだのは育成力の高さを証明する結果だった。法政大も2018年度の8位のみで、國學院大拓殖大は過去4年間の新人力では“ランク外”からのシード権獲得だ。そうなると、目標がシード権獲得であれば、スカウティングの不利をある程度は覆せるとも言える。ただし、優勝争いに加わるにはスカウティングと育成力の両方が求められそうだ。

帝京大は今年の箱根駅伝で5位と健闘。育成力の高さを証明する結果となった
帝京大は今年の箱根駅伝で5位と健闘。育成力の高さを証明する結果となった【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 これらを考慮して今後の学生長距離界を占うと、有力選手が多く残り、有力新人も加わる東海大が来年度以降は“1強”となる可能性が高い。東洋大駒澤大も戦力が残るため、これら3校は今後も優勝を争うチームとしてしのぎを削ることになるだろう。それに対して青山学院大は実力者ぞろいだった現4年生世代が抜けて一時的に戦力が低下することも考えられるが、新1年生が成長するであろう数年後には再び上昇に転じて旋風を起こすかもしれない。世代上位選手がコンスタントに入学している早稲田大や中央大、明治大の巻き返しもあるだろう。

 有力高校生が東海大に一極集中した現3年生世代が卒業した後は、学生長距離界は再び戦国時代を迎えるのかもしれない。


※ただし、明治大は3年生の阿部弘輝が昨年は1万メートルで2018年日本人学生ランキング1位となる27分56秒45をたたき出し、中央大も中山顕、堀尾謙介、舟津彰馬が学生トップランナーに成長。エースの育成という面では成功している。また、早稲田大も他大学に比べてスポーツ推薦枠が少ないため、上位選手が入学しても選手層は厚くなりにくいという側面があり、育成面で劣るとは言い切れない。