名もなき地方の記録会になぜ?

 トップランナー続々参戦のわけ

   
西日本スポーツ

 
陸上のナイター長距離記録会が1日、北九州市の鞘ケ谷競技場で行われ、9月の2020年東京五輪ラソン代表選考会「グランドチャンピオンシップ」(MGC)で優勝候補に挙げられている井上大仁MHPS)らMGC出場予定選手が4人(井上、園田隼、木滑良、岩田勇治)参加した。他にも昨年の日本選手権5000メートルを制した服部弾馬トーエネック)や2015年世界選手権1万メートル代表の村山謙太旭化成)、双子の市田孝・宏兄弟(同)ら国内有数のランナーが大量に参戦した。

【写真】約1カ月半ぶりにレースに出場したMHPSの井上

 記録会は北九州市民選手権の第1日終了後に行われた。一般高校男子5000メートルは9組に分かれてのタイムレース。井上ら有力どころの多くは午後7時40分開始の最終9組に出場した。

 同競技場では5月18、19日に九州実業団選手権が開かれたばかり。6月下旬に福岡市の博多の森陸上競技場で開催される日本選手権の参加標準記録の有効期間は5月27日までなので、今回の記録会は対象外となる。それでも有力選手が多く集まったのは、なぜか。

 井上を指導するMHPS黒木純監督は「日程的な面が大きい」と説明する。日本選手権の約4週間前。井上や服部ら既に参加資格を得ている選手にとっては、本番前に刺激を入れるタイミングとして適しているという。井上は13分50秒88で日本人4番手の12位。「それなりに動いた。ただ、最後、我慢できなかったから」と収穫と課題を得た。

 一方、2007年の世界選手権男子マラソンに出場した旭化成佐藤智之コーチは「時期的にも条件面でも記録が出やすい」と語る。駅伝やマラソンといったロードからトラックシーズンへと変わるのは4月。スピード練習を重ね、6月にはトラック仕様の体になってくる。加えて記録会はナイター開催。高台にある鞘ケ谷競技場は日が沈むと気温20度を切ることが多い。5月の九州実業団選手権は強風に泣かされたが、1日はほぼ無風で絶好のコンディションだった。

 市田孝は2017年にこの記録会で5000メートルの自己ベスト(13分33秒99)をマーク。今年は13分41秒96で日本人トップの6位に入り、約2年ぶりに13分50秒を切った。服部は昨年日本人トップの5位(13分42秒10)に入り、日本選手権で優勝。「今年も同じ流れに沿おうと思って。きょうも思った以上に涼しかった」と13分44秒13で日本人3番手の9位に入り、同選手権2連覇へ弾みをつけた。

 13分台を出したのは日本人8選手を含む17選手。MGCに出場する岩田勇治(MHPS)も自己記録(14分8秒35)に迫る14分14秒94を出し「MGCに向けて順調にきている」と手応えを得た。

 鞘ケ谷競技場は、かつて八幡製鉄の練習場となっており、1968年メキシコ五輪のマラソン銀メダリスト君原健二氏もここで汗を流した。今でも多くの競技会が開かれ、九州を中心に多くのランナーが集う。そんな伝統の地で行われた記録会は、トラックで勝負する選手、日本選手権を弾みにMGCに挑む選手の双方にとって、有意義なステップとなったようだ。