男子第66回・女子第27回全国高校駅伝競走大会


高校駅伝アベックV世羅、強さの秘密
好循環を生む“目標”の存在

 高校生ランナーのたすきには今年もドラマが詰まっていた。12月20日に京都市で行われた男子第66回・女子第27回全国高校駅伝競走大会。

男女とも前回優勝校の2連覇か、躍進チームの初優勝か――が焦点だった。そんななか最高の輝きを放ったのは世羅高(広島)。先に行われた女子が1時間7分37秒で初優勝を飾ると、男子は2時間1分18秒の大会新記録、それどころか高校国内国際最高記録(留学生を含むチーム編成での高校記録)をも更新して、単独最多9度目の栄冠。

22年ぶり2校目の男女アベックVを達成した。


  アベック優勝を果たし、記念写真に納まる世羅の岩本真弥監督(左端)と選手たち

連覇達成の原動力は「悔しさ」

 世羅高の男子は前回優勝した瞬間から、翌年の優勝候補筆頭だった。というのも、優勝メンバーから抜ける3年生は最短3キロ区間の2区と5区の2人だけ。1、2年生が順調に力を付けると考えれば、当然すぎる「優勝候補」だった。

 その世羅高が「神の領域」と称賛された04年仙台育英高(宮城)の2時間1分32秒を更新した。2位・九州学院高(熊本)に1分48秒差をつける圧勝。メンバーは「神を超えたら、何て言えばいいんだろう」と大記録に興奮した。

 しかし岩本真弥監督が「勝った翌年のチームづくりは難しい」と話す通り、連覇への道のりは平坦ではなかった。ケニア人留学生のポール・カマイシ(3年)は2連覇を狙ったインターハイ5000メートルの決勝レース中に右足を疲労骨折。主将の新迫志希(同)は2年時に5000メートル14分00秒45の好記録をマークしたが、今季はインターハイ5000メートル途中棄権など長いスランプにもがいた。前回4区1位の中島大就(同)には一昨年の全国7区で栄冠をめぐる4人のトラック勝負で“最下位”になった記憶がある。

 井上弘之(同)は前回6区で区間賞に輝いたのに今夏のインターハイ1500メートルは予選落ち。今季成長株の植村拓未(同)は前回控え要員。前回の優勝テープを切った吉田圭太(2年)は今年のインターハイ出場種目で希望した5000メートルの1校3人枠に入れなかった。それぞれが悔しさを抱える王者。「2時間0分台、それ以上」という記録への挑戦もチームを引き締めた。

留学生×日本人の相乗効果

 ケニア人留学生に頼っていると見られることもある。しかし彼らも努力なしでは記録は伸びないし、いつかは長距離王国ケニアを代表するランナーにという夢は叶えられない。彼らの妥協なき競技姿勢を見て、日本の高校生が自己を磨くという好循環が世羅高にはある。06年3区の鎧坂哲哉(現、旭化成)しかり、09年Vメンバーの北魁道、藤川拓也(ともに現、中国電力)しかり。11年1区の渡辺心(現、青学大4年)や全国高校駅伝不出場の工藤有生(現、駒沢大2年)ら、1月の箱根駅伝をにぎわせそうな卒業生もいる。

 岩本監督は元中学教諭。目標を持つことの大切さ、与えられるより自ら考えてチャレンジすることの意味を伝え、スランプで悩んでいても積極的に介入せず「待つだけです」と言う。子どもたちの将来性を伸ばす指導がチームづくりの骨格にある。

 今季は“日本人エース”が3人育った。新迫、中島、吉田だ。その1人、中島が1区。ハイペースに持ち込み、終盤まで区間賞を争った。トップと8秒差の区間3位は合格点。2区・井上が区間賞の走りで首位に立つと、3区・カマイシ、5区・山口和也(3年)、6区・植村も区間賞でたすきを加速させ、仙台育英高の記録ペースを上回った。
 そして7区、精神的なスランプからエースの座に帰ってきた新迫は、記録という見えない敵と競り合った末、ついに「神の領域」を突破。世羅高は記録との勝負にも勝った。

 記録を狙うあまり気負いや空回りによって失速するケースもよくあるが、「全員が想定通りに走りました」と岩本監督。1区・中島は「カマイシがケガでつらいとき、カマイシがいなかったら俺たちはどうなんだ? と考えるようになり、日本人だけでも勝てるチームをつくろうとやってきました。それにカマイシが加わって、新記録を狙いました」と胸を張った。

王者の目線は早くも次のステージへ

 勝った。記録を更新した。しかし、カマイシは狙っていた区間新を出せず、「体が動かなかった」と吉田は4区区間8位。新迫も区間賞を逃した。吉田は「来年3連覇して(個人の)借りを返す」、早稲田大に進学する新迫は「大学でもっと頑張れる」と次のステージを見る。歴代最強の王者にも次の仕事が待っている。

 2時間3分6秒の九州学院高。前回53位に沈んだ倉敷高(岡山)も2時間3分8秒で3位と健闘した。世羅高の対抗馬に挙げられた学法石川高(福島)は1区で世羅高から32秒遅れ。3区・遠藤日向(2年)が7人抜きと気を吐いたが、前回と同じ7位にとどまった。

世羅高・女子を変えた男子の存在


全国入賞すらなかった世羅高・女子。それでも身近にいる男子チームの存在により、意識が少しずつ変わっていった

 
最速と最多を手に入れた世羅高の男子に火をつけたのは、世羅高の女子だった。1区・小吉川志乃舞(3年)が区間賞で発進し、途中順位を下げたものの、アンカー5区の向井優香(2年)が先頭との35秒差をひっくり返して、うれしい初優勝。インタビューのお立ち台の上で、向井は「世羅は男子だけじゃない」と感激をかみ締めた。

 世羅高でいつも話題になるのは男子。全国制覇して世羅町をパレードするときも、女子は目立たないように最後尾をついていくだけ。羨望、憧れ。距離や設定タイムは違うけれど、練習内容は全国優勝を目標にしている男子と同じ。私たちにもできるはず。女子チームの意識が少しずつ変わっていった。

 全国入賞すらなかった女子チームは、男子チームと何が違うのかを話し合い、目標の差だと気づく。「1位か、8位か。目標の差は大きい」(長尾)。夏を越え、駅伝シーズンを迎えるころ、女子も全国優勝が目標だと口にするようになった。

世羅高の天下はいつまで続く?

 そんなチームをインターハイ3000メートル3位の向井と同4位の小吉川が引っ張った。1区の小吉川は「区間賞でチームに貢献したい」と有言実行。2区の1年生、大西響は広島県大会も中国大会も走っていないが、物怖じしない性格を買われて抜擢(ばってき)。先頭と2秒差で3区・長尾明日香(3年)につないだ。

 長尾は残り1キロまでにリードを広げられたが、前回も3区を走っている経験から「勝負は最後の上り坂」と冷静だった。ギアを変え、先頭の西脇工高(兵庫)に再接近。逆転はできなかったが、駅伝のお手本のような力走だった。4区では後退し、4位で5区・向井へ。岩本監督は「30秒差なら逆転可能」と見ていたが、実際は35秒差。希望を持って、見守るしかなかった。

 その向井。「とにかく優勝をあきらめずに走りました」と飛ばした。2連覇を狙う大阪薫英女高(大阪)、西脇工高をかわし、3.7キロ付近で先頭の常磐高(群馬)も捕まえた。そしてまぶしく輝くフィニッシュへ。「夢みたい」と笑顔の向井は、5区を日本人歴代トップとなる15分26秒で駆け抜けゴールテープを切った。

 走った仲間、サポートしてくれた仲間に「ありがとう、ありがとう」と声をかけて回った小吉川は「世羅に女子の時代も来るかなと、来年も楽しみにしています」。連覇が懸かるたすきが、向井たち後輩につながった。

 劇的な男女アベック優勝を果たし、世羅高が高校駅伝のレジェンドになった今大会。男子の区間賞こそ3年生が独占したが、2年生にも世羅高の吉田、学法石川高の遠藤ら5000メートル13分台の好ランナーが多い。女子でも1区で小吉川と同タイムだった田中希実(西脇工1年)ら、下級生が随所で好走を見せた。誰が次のヒーロー、ヒロインになるのだろうか。