女子駅伝で大学PR

 宣伝効果絶大、全国で創部相次ぐ

   

 正月の風物詩、箱根駅伝が空前の盛り上がりを見せる近年、「女子駅伝部」を立ち上げる大学が増えている。2007年以降、全国各地で続々と新設され、来春には5大学で発足予定。少子化で実質的な「大学全入時代」を迎えた中、広告媒体として絶大な効果がある駅伝を活用し、受験生獲得につなげようという思惑が背景にある。(細井伸彦)

 ◆「箱根」よりお手軽

 10月17日、49校が参加した箱根駅伝予選会で9位に入り、悲願の初出場を果たした大学があった。創部5年目の東京国際大だ。平均視聴率が30%に迫り、優勝校のメディア露出を広告費に換算すれば、約20億円に上るともいわれる「箱根」。大学が名前を売るには格好の舞台といえる。

 男子は出雲全日本大学選抜駅伝、全日本大学駅伝箱根駅伝を総称して「学生三大駅伝」と呼ぶ。女子にとってのひのき舞台は、10月下旬に仙台市で開催される全日本大学女子駅伝、年末に静岡県富士、富士宮両市で行われる全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)で、ともに全国中継される。広告効果だけを考えれば箱根とは比ぶべくもないが、大学側が女子に狙いを定める理由がある。ずばり、“お手軽感”だ。

 1月の箱根で初の総合優勝を飾った青学大は、4学年で計43人の選手を抱える。総合優勝11度の順大は70人を超える大所帯。全日本は8区間、箱根は10区間で覇を競うだけに相応の頭数が欠かせない。

 一方で女子は全日本が6区間、「富士山」が7区間と短く、少数精鋭のチーム編成が可能。全体のレベルも決して高いとはいえず、男子に比べて参入しやすい土壌がある。今春、新入生7人を迎えた石巻専修大は、立ち上げから半年で全日本出場を果たした。創部6年目の大東大は全日本で3年連続2位となり、07年に強化を始めた松山大も6年連続で5位以内をキープする。

 ◆学費と留学費免除

 06年以降、全日本優勝は立命大、佛教大の関西勢が独占。近年はシドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんの母校、大阪学院大が頭角を現し、関大や京産大も力がある。そんな関西の勢力図を塗り替えようと強化に乗り出したのが関西外大だ。

 13年の創部からわずか2年で全日本切符を獲得。14年は21位だったが、今年は13位に躍進した。同大学研都市キャンパスの石田一雄事務局長は「駅伝やマラソンは注目度が高く、大学の名前をテレビでアピールできる時間が長い。目玉になるスポーツの部活動を探していた」と話す。

 創部に合わせてグラウンドを改修し、トラックの外周に脚の負担を軽減するウッドチップコースと高低差1・5メートルの傾斜路を敷設。環境面のバックアップはもちろん、選手勧誘においても抜かりはない。最大6人のスポーツ推薦枠を設け、授業料と寮費は全額免除に。語学留学先での授業料も大学側が負担するという厚待遇で、選手を受け入れる。部の年間予算は2500万円近い。

 ◆学連会長が“苦言”

 ただ、箱根が盛り上がる男子と同じく、大学女子駅伝の活況がトップ選手の強化に直結しているとは言い難い。7月のユニバーシアード(韓国・光州)では、ハーフマラソンで菅野七虹(立命大)が銀、上原明悠美(松山大)が銅メダルを獲得。だが、翌月の世界選手権(ロンドン)における女子長距離の入賞は、マラソンで7位に入った伊藤舞大塚製薬)だけだった。

 10月24日、日本学生陸上競技連合の関岡康雄会長は全日本大学女子駅伝の開会式でこう注文した。

 「駅伝は目標ではない。学生の殻を破り、さらに上を目指して活躍してくれることを強くお願いしたい」

 恵まれた環境に安住せず、高い意識を持って鍛錬を積めるか。日本の女子長距離が長らくの低迷から抜け出せるかどうかは、そこにかかっている。