ワールドマスターズ

認知度1割、ワールドマスターズとは 朝原宣治氏に聞く

   
朝日新聞デジタル

 

生涯スポーツの祭典「ワールドマスターズゲームズ(WMG)」が、2021年に関西を中心に開催される。

開幕まで14日でちょうど2年となったが、組織委員会の調べでは、認知度は全国で1割、関西エリアでも2割程度と機運醸成はまだこれから。どんな大会で、どう楽しめばいいのか。

大会アンバサダーで2008年北京五輪陸上男子400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治(のぶはる)さん(46)=大阪ガス=に魅力を聞いた。(有田憲一)

【写真】イベントで子どもたちと走る朝原宣治さん=昨年9月、北海道士別市


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 ――大会の意義について教えてください。

 「2020年に東京五輪があり、スポーツに対する関心が高まっている時期。WMGは五輪の翌年。一歩踏み込んで、今度は自ら参加することに意味がある。ノリでいい。究極を言えば、勝たなくてもいい」

 ――真剣勝負の場とは少し違うのでしょうか。

 「勝つことを目標に頑張ることもモチベーションだが、スポーツの価値はそれだけではない。現役時代から、僕のスポーツのとらえ方は『楽しむもの』ということ。自らの体が成長していく過程を楽しむ。自分の限界や自己ベストを更新することが最大の目的。大会はそんな『自己肯定感』の大切さを伝えるチャンス。それを東京だけでなく、地方からこのようなイベントから発信し、啓蒙(けいもう)していくことは意義がある」

 「スポーツの価値観はいろいろあっていい。主宰する陸上クラブの小学生の練習では、時にリレーでのバトンの受け渡しの素早さだけを競わせる。スピードだけでなく、チームワークや工夫は大事だからだ」

 ――昨年9月の世界マスターズ陸上で45~49歳の部の男子400メートルリレーで金メダルを獲得しましたね。

 「昨年2月、メンバーに誘われた。36歳で引退してから10年間は本格的なトレーニングをしていなかった。3カ月、自分なりに体を動かしていけると判断して参加を決めた。しかしそこから太もも1回、ふくらはぎ2回の肉離れを起こした(笑)」

 「大会後も週1回のペースで朝か晩、トレーニングするようになった。近所の川沿いを走り、あとは腹筋、腕立て伏せ。長くても2時間。スポーツに特別な場所や服装はいらない。普通の運動靴にジャージー姿でやる。会社でも5階の職場まで階段を使うようになった。タクシーも初乗り料金の距離なら歩こうと」

 「年を重ねて体力が衰えると気力もなくなってくるもの。週1回でもトレーニングすることで仕事、私生活でも今まで以上に元気に過ごせている。疲労の回復も早い」

 ――出場するだけでなく、交流も一つの柱になっています。

 「先日、沖縄の伊江島一周マラソン大会というイベントにゲストとして呼ばれ、プライベートも兼ねて家族と参加した。ゴール近くに出店があって、終了後は飲んで食べて健闘をたたえ合った。これが楽しい。すべてを出し切った爽快感。同時にそんな気持ちを共有できたことが理由かもしれない」

 ――出場希望者にアドバイスはありますか。

 「楽しむからこそ、大会に出るまでの準備は意識してほしい。自分のベストを更新し、自らの変化を感じるためには、そのプロセスが重要。できる範囲で鍛えればいいと思う」

 ――ご自身も参加されますね。

 「専門外のスポーツに出てみようかなと。陸上は出るなら、100メートルかな。リレーはメンバーが集まれば出たい。勝負にはこだわらないが、五輪メダリストとして恥ずかしい姿は見せられないとは思っている」


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 〈ワールドマスターズゲームズ〉 生涯スポーツの国際大会。4年に1度開かれ、開催10回目を数える2021年関西大会は、アジアで初の開催となる。関西を中心に福井、鳥取、徳島、岡山を加えた2府8県で35競技59種目を実施。陸上や水泳など五輪競技のほか、綱引きやゲートボール、ダンススポーツなども含まれるのが特徴。

過去最大となる約150の国・地域から約5万人(国内3万人、国外2万人)の出場を見込む。出場時に満30歳以上であれば基本的に誰でも参加可能。来年2月から出場受け付けが始まる。

参加費(未定)が必要。出場日程の前後に観光などを楽しむ「スポーツツーリズム」を掲げ、大会組織委員会は1461億円の経済効果を見込む。