サニブラウンだけじゃない記録の話。

女子やり投、100m障害で快挙の気配。

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© Bungeishunju Ltd. 提供 下段中央が北口榛花、右が木村文子。女子陸上界でもエポックメイキングな記録達成の気配が漂っている。
 



2019年の日本陸上選手権は、かつてないほどの注目のされかたで、サニブラウン・アブデルハキームをはじめ、男子のスプリンターは陸上競技のファン以外にも認知度は上がったと言えるようだ。
 
ただ開催された6月27日から6月30日は、ほとんどの競技が雨の中で開催されたため、記録はあまり上がらず、日本タイ記録はあったが、日本記録は出なかった。

 だが、'19年の大会では男子100m以外にも注目すべき記録、注目すべき勝負はあった。ワールドクラスの記録が出た女子やり投と、ワールドクラスの記録ではなかったが、興味深い勝負が展開された女子100m障害について見てみたいと思う。

 女子のやり投では、北口榛花が5月に64m36の日本記録を出していた。'19年の世界ランキングでは10位にランクインしている記録だ。北口は、やり投を高校から始めてまだ21歳、記録を伸ばしている中、日本選手権での投てきが注目された。

 1投目で62m68、4投目に63m68を投げて優勝を決めたが、内容は最近の成長ぶりをよく見せた優勝だったと言える。優勝記録は5月に出した日本記録とほぼ同等で、アベレージが上がっていることを見せただけでなく、1投目で62m68という記録を投げたことが重要だった。

 というのは、世界選手権などの国際大会では、最初に予選を通過して決勝に残るという重要なステップがあって、予選というのは3回の投てきで通過しなければならないからだ。

 '17年の世界選手権を振り返れば、予選の通過ラインは予選A組が62m58で、予選B組が62m29だった。つまり決勝に残るには、3投の中で間違いなく62m台を出すことが重要だと言えるから、日本選手権での1投目の62m68は意義深い投てきだったわけだ。

日本初の世界選手権8位の可能性?

 日本選手権での記録について本人は、すごくうれしいというわけではないと語っていたが、約3カ月後の世界選手権に向けては、意味のある記録だったと言える。優勝記録の63m68は'17年の世界選手権なら8位に相当する。女子のやり投で、日本選手として世界選手権で8位以内はまだ出ていないから、北口が歴史を切り開く可能性大だ。

 やり投を始めるまで、小中学校の時代にはバドミントンと水泳をやっていて、バドミントンでは小学校のときに全国大会に出場しており、日本代表で活躍している山口茜とは同学年で対戦したことがあるという。
 バドミントンのスイングと、やり投の腕の振りには共通点があり、小中学校の時代にやっていたことが、やり投という競技につながっている、と言えそうだ。

19歳で出した記録を26歳で更新した選手も。

 女子やり投では優勝した北口だけではなく、2位になった森友佳までが世界選手権の参加標準記録を突破した。

 62m88を投げたのだが、'18年までの自己記録から3m66という大幅な更新を果たす大飛躍だった。以前の自己記録は'12年、19歳のときに出したもので、26歳になって、7年ぶりに大きく記録を伸ばしたわけだ。

 5月にやり投の強豪国、フィンランドに行って、代表コーチから肩の柔軟性の重要性について教わったことが、飛躍のきっかけになったという。本人は、世界の舞台で戦えるスタートラインに立っただけ、と語っており、'19年のうちに、また記録を伸ばす可能性はありそうだ。

100m障害は2番目に古い日本記録

 記録の面では、ワールドクラスとはちょっと開きがあるものの、興味深い勝負になったのが女子100m障害だった。

 優勝は第一人者の木村文子で13秒14、2位は'18年の優勝者である青木益未で13秒15、3位は6年ぶりで陸上競技に復帰した寺田明日香で13秒16だった。世界選手権の参加標準記録は12秒98だから、まだ届かないが、いくつかの意味で、価値のあるものだったと言える。

 第一に、金沢イボンヌが'00年に出した日本記録、13秒00の突破に向けては、木村、青木、寺田が可能性を見せた、ということだ。

 日本選手権は、雨上がりでトラックが濡れた状態でのレースで、追い風0.6m、記録が出やすい条件とは言えなかった。天候、風の条件がそろえば、3人が13秒0台を出した可能性はあったはずで、陸上競技の女子では2番目に古い日本記録が、19年ぶりに塗り替えられる可能性があることを見せたレースだったと言える。

 13秒02の自己記録を持ち、日本選手権では13秒20で4位だった紫村仁美まで含めれば、日本で初めての12秒台は、相当に見えてきたと言えそうだ。

 100m障害の場合、世界選手権で決勝に残るためには、'17年の大会の準決勝を見ると12秒86以上のタイムを出さなければならなかった。したがって12秒台を出して、参加標準記録の12秒98を突破したとしても、決勝の8人に残るためには、まだちょっと届かないレベルだ。

 ワールドクラスへの道のりにはまだ距離があるわけだが、ただ、31歳のベテランの木村、25歳で自己記録を出して2位になった青木、故障などがあって一度は第一線を退いて、長女を出産したあと、29歳で帰ってきた寺田と、個性のあるスプリンターが、独自の道のりの中で、日本で初めての12秒台を争っていくというのは、興味深いところだ。